Kindle版 太宰治全集(200円)を買ったけど、やっぱりちくま文庫版 太宰治全集(10,530円)が欲しい件

太宰治作品については『人間失格』『斜陽』『ヴィヨンの妻』『津軽』『パンドラの匣』など、有名な長編作品はだいたい読んだ。

しかし、あまり知られていないだろうが太宰治は短編こそが至高だ。

『女生徒』とか『待つ』『千代女』とか、戦後に書かれた『十五年間』『冬の花火』みたいな短編をちょろちょろ青空文庫で読んだのだが、個人的には最初に上げた長編作品たちよりも感銘を受けた。

 

太宰は『人間失格』や破天荒でデカダンな人生のイメージが先行しすぎて、一般的には暗くてジメジメした作家だと思われている。しかし、短編なども読んでみると、イメージとは違って意外とも言えるような、さまざまな太宰の人間像が垣間見られる。

なにより太宰の短編は、美しい小品のピアノ曲といった趣がある。エッセーでも短編でも、太宰の全部の作品を読んでみたくなった。

 そこで全集だ。

青空文庫に太宰作品がすべてあるので、それで読んでいこうかと思ったが、短編とか戯曲とか短い作品でも一つの作品として区分されており、一つ一つダウンロードしなければならないため非常に面倒くさい。無料だけど青空文庫はやめておいた。

 

「やっぱり紙がいい」と思った。

今のところ紙の太宰全集には、ハードカバーと文庫の2種類がある。いずれも筑摩書房だ。

 

筑摩書房 太宰治の本 決定版太宰治全集

筑摩書房 太宰治の本 文庫版太宰治全集

 

本当はハードカバーの決定版が欲しいけど、全部で83,200円とどう転んでも手が出ない。

まあ、太宰の研究者でも専門家でもないし、素人のぼくには10,000円の文庫版で十分と思い、欲しくなった。

(どっちにしろ、文学好きじゃない人からすれば、太宰治全集を買う奴なんて「こいつ大丈夫か」となるんだろうからヤバイ)

 

文庫版でも10,000円もする。高い。いい年こいて10,000円の本も買えない僕。

kindleストアをチラチラと見ながら何かいい方法が無いかと思っていたら、あった。

kindle太宰治全集』。お値段なんと200円。

安っす!安くね?安すぎワロタwww

完全に筑摩書房にケンカを売っている値段。

 

 

10,000円のものが200円だ。これはお買い得すぎるだろと、一ミリの迷いも躊躇もなく「1clickで今すぐ買う」をソッコーでポチった。

いや〜得したなあと思って、さっそくkindleアプリを開いて「kindle太宰治全集」をダウンロードした。相当なボリュームなので時間がかかった。

そしていざオープンしてみると…。

 

・目次だけで30ページ以上。

kindleの下部にあるページ数が、見たこともない膨大な数字(全部でNo.62631。No.763で『地図』『列車』『田舎者』『魚服記』『魚服記に就いて』と『思ひ出』の途中まで行って、やっと1%)

kindleアプリ左上部をタップして縦スクロール型の目次を表示。長っ!長すぎ(スクロールバーの地点をご覧ください。目次にある一つ一つの表記が一つの作品)。

 

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この『kindle太宰治全集』は、ひたすら一つの本として、太宰の全作品が並んでいるのだ。

これほど読みにくい本はない。めくってもめくっても終わりが見えない、ものすごく分厚い1冊の本だ。

僕は「ライブラリ」ボタンをタップして、『kindle太宰治全集』をそっと閉じた。

 

喜々として勝ち誇ったかのようにダウンロードしてから、その間15秒くらいの出来事だった。200円を溝に捨てたぼくは一瞬にして王座奪還された。

 

1冊として本が編集されることは、これまで人類が思いもよらなかったほど大きな意義があるのではないだろうか。

ツイッター電子書籍を漫画の巻数で分けるの、紙の都合でしかないでしょ?バカなの?」というツイートを見かけたことがある。めちゃくちゃRTとfavがされていた。

鋭い見解でなるほどなあとおもったけど、やっぱりこのツイートは間違った意見だと思う。

 

電子書籍であろうとなんだろうと、物質としての紙で編集されたくらいのページ数のほうが遥かに読みやすい。

 

もちろんページ数の多い少ないは紙の本でもある。しかし、物質的に存在する本は、際限なくページ数を増やすことはできない。

文庫本サイズで太宰治全集の全ページ数が、もしも1冊の本としてまとまっていたら、そもそも本自体が開かない。

想像してみたらたいへんなことになった(絵ヘタですまん)。

 

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こんな本、どうやって読めばいいというのか。真ん中の方のページなんて、自炊してバラバラにしないと開けないだろう。

そして『kindle太宰治全集』は大げさではなく、気分的にはこの超絶に長い1冊の本のように読みにくいのだ。

 

デジタルやヴァーチャルなどの世界は、きっと結局は現実をなぞらえていなければならないのだと思う。

だから電子書籍は、紙の本の姿を忠実に、ヴァーチャル上で表現するべきなのだと思う。

 

紙の全集が「かかって来いや」とでも言うように書棚の上で堂々と鎮座している様は、どうあがいてもKindleくんには表せないだろう。

だから僕はやっぱり、ちくま文庫太宰治全集(10,530円)が欲しいのでした。